富士山と富士五湖の情報局

河口湖のぬし
【十二ヶ岳と雨乞い】
日照が続くと十二ヶ岳のお堂へのぼり、雨乞いの剣をもち出し、河口湖に沈めるのがならわしでした。
かねやたいこを鳴らして祈りました。

河口湖のぬし

日照り続きで、湖の水も日毎に減っていきます。人々は相談しました。そこで河口湖のぬしである赤牛に、花嫁を差し出すことにしました。

 河ロ湖のぬしは赤牛だと、昔から人々は信じてきました。干ばつで湖の水が引くと、陸へあがってくるといいます。何人もが見たともいいます。
 江戸時代のはじめ、村はまれにみる干ばつに見舞われ、畑の作物は枯れていきました。人々は行列を組んで十二ガ岳のお堂へお参りすると、雨乞いの儀式をはじめました。剣を手に鵜の島あたりに舟を出しました。剣を湖底に沈めると、雨が降ると信じられていました。かねやたいこを打ち鳴らして空を仰ぎ、祈り続けました。
 それでも雨は降リません。そんなとき、ひとりの娘が赤牛を見たといううわさが広がりました。
「もしかすると、ぬしさまが、その娘を見そめたのかもしれん」「そうだ、その晩に、赤牛さまの嫁になってもらおう」「そうさ、そうすりゃあ、ぬしさまが雨を降らせてくれるかもしれん」村の人々は、雨の降らないあせりから、すこしばかり道のはずれた相談をしました。
村中の人々から頼まれて、娘も、娘の親もどうすることもできません。泣く泣く嫁入りをすることを承知しました。しかし、娘の幼なじみの庄八だけは、そんな恐ろしいことはできないと考えました。「牛の嫁入りは、牛でええ」庄八は家族同様にかわいがっていた自分の家の黒牛を乗り出すと、湖のなかに入っていきました。
 庄八は、黒牛にわびながら言い聞かせ、その尻を強くはたきました。黒牛は驚いた勢いで、どぶりと、水中深くへ駆けこんでいきました。
 それから、半刻、嫁入り支度を急ぐ娘の家の屋根に、ぽつリと、雨の音がありました。


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