水…四方山話 |
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富士山の水
富士山はご存知の通り火山である。火山であるから溶岩台地だ。溶岩台地は水を溜めない。従って、富士山の地下に水は消えてしまうのだ。
消えた水は麓の湖や池に出現する。富士山は巨大なスポンジだと思っていただきたい。雨や雪が降って、スポンジに染み込んだ分の水が麓から湧き出すという仕組みになっている。湧き出した水は数十年前の水だとも数百年前の水だとも言われ、富士五湖を形成する。
まぁ、どちらにしろ尊いものだ。
さて、たとえば湖に湧き出る水がどのような様子なのか観察したければ忍野八海に行くと良いだろう。忍野八海は太古の時代に湖だった場所が干上がってできた場所だ。
その昔、湖の底だった水の流出口が湖の退化で現れた池である。こんこんと湧き出る水の流出口は深く、吸い込まれるような色をしている。縦に空いた溶岩のトンネルの奥から水が沸いてくる感じだ。そうそう、ちょっと前ダイバーが撮影のために忍野八海の流出口に潜ったきり行方不明になった事件があったなぁ。つまり、深いってこと。
富士山の水は特別らしく、玄武岩の溶岩層を通過している間にバナジウムが多量に溶け込んでいることが近年知られてきた。
最初の発見は横浜の医師だという。人工透析の機器にバナジウムが見つかり、そのルーツを辿ったら相模川から富士山に行き着いたそうである。このバナジウムは糖尿病患者の救世主としてテレビや新聞で騒がれ有名になった。なぜ糖尿病患者の救世主となったのかであるが、バナジウムは体内で血糖値を下げる役割のインスリンと同程度の働きがあるそうで、実際に血糖値の下がった糖尿病患者の報告もある。しかし本当のところは、「糖尿病に効果があるかもしれないという人間の思い込みの治癒力と、それを飲みつづけられる水自身の味の良さ」ではないかと思う今日このごろ…。
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富士山の水とミネラルウォーター
私が子供の頃、水を買うなんて考えられなかった。その後、東京で一人暮らしをした。水は買わなければ飲めなかった…。
東京の水のまずさには驚いた。まず、臭いのである。水道の蛇口から水が出る瞬間にかび臭さがあたりに漂ってくるのだ。
次に味と食感が悪い。水っぽいのだ。水だから水っぽいと思っている人も多いかと思うが、美味しい水は濃厚でまったりしている。
そして、近年の富士山の水のブーム(バナジウム)で、富士山周辺のミネラルウォーターが注目を浴びている。インターネット上でも富士山の水が乱立している。しかし、チョット待てよ?水源に限りがあるのに何故あんなに販売者が多いんだろう?
そこで調べてみた…。ほとんどの業者は取水地から水を分けてもらい、そこから自社の箱やシールを張って出荷しているのだ。これでは商品が高くなって当り前。ひどい商品だと2リットル数千円の水がある。考えられない。
富士山を水源とするメーカーから水を分けてもらっている業者はまだ良い。中には三ツ峠周辺のメーカーから水を分けてもらい富士山の水として販売している業者も存在する。また、中にはバナジウムを添加したり、水を煮詰めて濃度を高め検査に出したりと、やりたい放題の感もある。将来、これでは地元のまじめな業者も共倒れになってしまうんじゃないだろうか?まぁ、水を分けているんだから、しょうがないと言えばしょうがないことでもある。
本来、バナジウムのブームでなくても富士山の水は美味しい。濃厚でまったりしている。特に富士山北岸、河口湖上の水はまろやかである。
富士吉田も富士山北岸の水源であるが、個人的にその水脈上に富士山の山小屋が存在しているので好きになれない。毎年数十万人がやってくる登山道下に富士吉田の水源があり、どうも気分が乗らないというのがその理由でもある。しかし、安全性に当然問題は無く、気分の問題でもあることは分かっている。
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河口湖地域の水事情
ちょっと昔には地下水を得ることが難しかった。今でこそボウリング技術の進歩で深く井戸を掘ることができるが、昔はそうでもなかった。
さて昔、とは言っても平成のちょっと前。富士五湖周辺では水の確保を河川から行っていた。
典型的な例は、河口湖の水をポンプで標高の高い場所に汲み上げたりしてたものだ。つまり、ちょっと前まで富士五湖地域の水道水は今ほど美味しくなかったわけだ。
長年水に悩まされていた先人たち(祖父の時代)は色々考えた。特に河口湖の水利用はユニークである。
近年では、「河口湖の異常増水」という新聞記事を覚えているだろうか?河口湖は湖から流れ出す川が無いのが特徴である。その河口湖に大量の雨と地下水が流れ込めば増水するのはあたりまえである。
だが、あの新聞記事以外の年に近年では異常増水したことは無かった。いや、先人たちが予防していてくれたのだ。河口湖の東にロープウェイがある。その近くに河口湖の水をゴウゴウと吸い取っている場所がある。あの水はロープウェーのある山(天上山)を超えて富士吉田に通じている。要するに河口湖の水位を調節しているのだ。
現在の吸引口は近代的なものだが、昔は同じ役割の手掘りトンネルが存在していた。その記念館も河口湖にあるので是非訪れるのもいいだろう(さすがに、この時期の河口湖は度々増水していた)。このトンネルは河口湖の増水対策の理由と、富士吉田市の水不足に対処するために掘られたトンネルである。
河口湖より西湖のほうが標高は高い。だから、西湖と河口湖の間にトンネルを掘り、西湖の水を河口湖に落とすことで、西湖の水の調整と発電、さらに昔は河口湖地域の飲料水に利用していた。
西湖も河口湖と同様に流れ出す川が無い。西湖の水は河口湖に落とされ、河口湖の水は富士吉田市に落とされている。
近年の河口湖の異常増水のとき、西湖でも異常増水した。西湖では「河口湖へ水を大量に落としてくれ」と言う、河口湖では「そんなことしたら河口湖の水も増える」と言う。あの時は水のことで険悪な雰囲気になったものだ。
余談になるが江戸時代より前、河口湖には筒口と呼ばれる天然の吸入口が存在していた。全部で六個あったようで、溶岩の裂け目からゴウゴウと音を立てて水を吸い込んでいた。あまりに危険なので応仁三年(1469年)、この筒口は塞がれてしまった。その後、湖の水位調整のため開いたり閉じたりしていたようであるが、現在ではすっかり閉ざされている。
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富士吉田市…水道水の明暗
現在の富士吉田市の水道水は富士山からの地下水と河口湖からの引導水を使用している。水道水で地下水を使用している地域は富士吉田市の南側、河口湖の水を途中で混ぜて使用しているのは富士吉田市の北側。
問題はその水の味。富士山の地下水のみを使用している分には美味しいのだが、いったん地表に出た河口湖の水は若干臭みを伴う(と言っても都会の水に比べれば良い)。つまり、同じ富士吉田市でも水道水の味がだいぶ違う。
富士山の地下水を使用した水道水に河口湖の水道水が混ざるのは富士吉田市のほぼ中央である。従って、富士吉田市の中央部分では複雑に事情が違う。つまり、どの程度河口湖の水道水が混ざっているかが問題なのである。ご近所さんでもそれと分かるように水道水の味が違う。
完全に河口湖の水が混ざりきった地域では諦めもつくのだが、ちょうど水道水の配管の関係で混ざり合う地域では隣近所で水道水の味が違うのだ。もうそれは張り巡らされた配管の運でしかない。
富士吉田市では、今日もどこかで自分の家の水道水の味について語られていることだろう…。と記述したところ、上記には間違いがあると指摘する人が現れました。
現在(2005年)の富士吉田市は何年か前から河口湖の水を水道水に使用していないとのことです。確かに昔は河口湖の水を水道水に使用していましたが、現在は使用していないだろうとのこと。
富士吉田市の水事情について現在どのようになっているのか分かり次第、追ってレポートいたします。
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富士山の水の幻
富士山には「幻」と言われている水の現象が三つある。
・「幻の池」
富士山頂に池が突如として出現する。あのスカスカの溶岩の真っ只中に水が溜まるのだ。
さて、時期は春。山頂の雪が解け始めると山頂にコノシロ池と呼ばれる池が出現する。
伝説ではこの池にコノシロ(鮗・鰶)という近海魚が住んでいるという。木ノ花咲耶姫と縁談を望みたい乱暴者の風神を遠ざけるため、この池のコノシロを従者に取りに行かせた。そしてその魚を焼き、姫の葬式に思わせ風神は泣きながら去っていったという。
・「幻の滝」
富士山中腹の沢と呼ばれる木の無い溶岩の通り道がある。この沢は、富士山を引っかいたように谷で形成されている。遠目に見たとき富士山の雪の形がギザギザしている部分の下まで伸びているところだ。その溶岩の殺風景な場所に突如として滝が現れる。富士山の雪解け水が地下に潜りきれずに出現し、沢の崖の部分で滝となってあふれる。時期になれば沢の数箇所で出現するが、その日の気温との関係でナカナカ見ることができない。
・「幻の湖」
精進湖近くに赤池と呼ばれる場所がある。ここに富士五湖の水位が上昇したときだけ湖が出現する。この赤池は出現すると地元でも報道され、一度出現すると数日は存在するので見られる確立は高い。
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