いよいよ最後の4点目として、この画の持つ最大の特徴を説明する準備ができました。
それは、「この画は一枚の画の中に5コマの時間経緯が描かれている」ということです。
まず、波の効果を富士山のせり上がりと連動させて、同時に視線の運びをコマの進行とリンクさせることで止まっている波が動き出す効果を狙っています。そして、船に乗っている人が3艘とも同じようなポーズをとっていることから、この船は一艘を三分割していると想像できます。
つまり、画の下部にある船が波に向かっていき、左の船のように波に乗り上げます。そして最後に巨大な波が覆いかぶさる様を表現し、それからまた画の下部に移り動作をグルグル繰り返します。同時に波しぶきは富士山へ雪を降らせ、波頭は千鳥となって空に飛んでいきます。それらが富士山というモチーフで深層心理にまとめられ、この画の中に見る人を引き込んでいきます。
「何故かダイナミックな画」という印象は構図もさることながら、動きを感じることによって生み出される計算された効果なのかもしれません(北斎の画は動かしたくなる作品が多く、実際にアニメのコマ送りのような画も多くあります)。まさに名画というのに値する作品であります。
なお、このアニメ表現は波の形状表現とは異なり、あくまで表現の可能性を検証するものであり、ミスリードを誘発させることを意図していないことに注意していただきたいと思います。 |